2023-01-01から1年間の記事一覧

テトラの本棚③梶井基次郎『冬の日』

梶井の遺した小説はそのほとんどすべてが秀作と呼ぶにふさわしいものだが、一作選べとなるとやはり『檸檬』を推す声が多いだろう。しかし、個人的な好みは『冬の日』である。たしかに鋭利な思想はないけれども、簡潔で鮮やかな比喩、精密な助詞の配置、回想…

テトラの本棚②横光利一『花園の思想』

彼は暫く、その眼前に姿を現わした死の美しさに、見とれながら、恍惚として突き立っていた。と、やがて彼は一枚の紙のようにふらふらしながら、花園の中へ降りていった。 『花園の思想』 小説を一編だけ天国に持っていけるならこれを選びたい、それほど美し…

テトラの本棚①ボルヘス『伝奇集』

彼はこの反論の余地のない前提から、図書館は全体的なもので、その書棚は二十数個の記号のあらゆる可能な組み合わせ━━その数はきわめて厖大であるが無限ではない━━を、換言すれば、あらゆる言語で表現可能なもののいっさいをふくんでいると推論した。いっさ…